デザイン思考10 イノベーションの習慣化

【仕組みと習慣】
デザイン思考の本質は「イノベーションの日常化」であり、その目的は「イノベーションを生み出すモノの見方、考え方を習慣化すること」です。では、どうやって習慣化するのでしょうか?

ここで大切なことが「仕組み」です。仕組みとは、「無意識に繰り返される習慣」のことです。日常的にイノベーティブな発想ができる人は「イノベーティブに考えなきゃ!」とは考えません。そうなるような思考プロセスを日常的に実践しているのです。

そして、チームにおいてはこれがもっとも重要な意味を持ちます。「人はルールには従わないが社風には従う」と言われますが、チームが持つ特有の空気に人は自然と引き付けられます。クリエイティブな空気がチームに浸透すれば、人は自然とクリエイティブに考えるようになるのです。

【デザイン思考が浸透するチームの仕組み】
では、どのようにその仕組みを創るのか?まず取り掛からなければならないことは、リーダーがイノベーションに対する意識をいかに高めるかです。チームリーダーにその意識がなければメンバーが主体的に習慣を変えることはありません。イノベーティブなチームを創りたければ、まずはリーダーが決意するのです。リーダーのやる気がチームを変革する第1の条件です。

次に、仕事の仕方、業務フローを変えることです。これまでのやり方を変えなければ結果は変わりません。デザイン思考のプロセスを取り入れた業務フローやディスカッションの時間を可能な限り業務に組み込むことで、仕事のやり方が変化していきます。

また、オフィス空間を工夫することも大切です。狭い空間により多くの人を詰め込むオフィスではクリエイティブな発想は生まれません。自然と対話が生まれる空間レイアウト、家具や備品に至るまで、そのこだわりが創造性を育みます。

加えて、上司と部下の間に、先生と教師の関係を創らないことです。フラットな関係、チームメンバーとの適切な距離、自由に発言できる環境の無い所にデザイン思考は浸透しません。誰もがクリエイティブになれるということをチームメンバーが理解することで、初めて思考の扉が開くのです。

最後に評価の軸を変える事です。従来型の評価は、正確性、労働時間、ルールの順守、個人の活躍、結果の量や大きさによってなされています。このように従来型の評価制度では、数値定量化可能であり失点が少なければ評価されるものです。

しかし、デザイン思考を根付かせるためには、それとはまったく異なる仕組みが必要です。チームへの貢献、チームの成果、ユーザーへの貢献、ユーザーからの評価など、量や大きさでは測れない曖昧で、同時に失敗に対する評価が極めて寛大なものでなければなりません。メンバーに実践のためのやり場を創ることが大切です。

このように、「やる気、やり方、やり場」といった仕組みを最適化することが、イノベーションの日常化を実現するエンジンとなるのです。

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デザイン思考9 STEP5「テスト」

【そのアイデアはユーザーの課題をより良く解決できるのか?】
プロトタイプが出来上がったらいよいよユーザーによるテスト段階に入ります。初めのステップ「共感」で、ユーザーの声や行動の観察、自らの体験などによって様々な情報を得た中で、真の課題の抽出、アイデアを経て出来上がったプロトタイプをユーザーがどう評価するのか?とてもドキドキする瞬間です。

もっとも重要なことは、「そのアイデアはユーザーの課題をより良く解決できるのか?」です。多くの場合、課題の解決方法はひとつではありません。その中のひとつを選択し提案する限りは、他のアイデアよりもより良く課題を解決しなければなりません。

「誰にでも使えるアイデアであるか?」「ムラなく何度でも再現できるものか?」「意図したとおりの使い方をしてくれるのか?」。より良く使って頂くためのフォローアップは必要ありません。ユーザーの実際の利用状況を見ながら、より多くの失敗を体験することが大切です。

また利用ユーザーがそれに対してどのような感情を抱いているかを観察しましょう。「けげんな顔で眺めているのか?」「待ってたわ!と前のめりになるか?」「好感を持ってみているか?」。こうして、機能的に意図した結果を得られているか?好感を持って捉えられているか?を見極めることが製品普及に繋がっていきます。

【勇気を出して共感や問題定義に戻る】
この時点で、ユーザーが的外れな体験を繰り返しているとしたら、それは問題定義に誤りがあるかもしれません。「これなら役に立つはずだ!」と意気込んでテストに臨んでいるかもしれませんが、そうした感情は置いておきましょう。すべてをユーザーに委ねてただ見守るのです。

そして、もしユーザーが抱える真の課題や不満が解消されないとすれば、共感や問題定義に戻り、再び最初から始めるのです。それこそがテスト段階においてもっとも重要な点です。

デザイン思考では、あらゆる段階において失敗や繰り返しを許容し、より最善を目指していきます。決して規律正しい順序によってではなく、非直線的なアプローチ、思考、習慣が「イノベーションの日常化」につながっていくのです。

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デザイン思考8 STEP4「プロトタイプ」

【より早く、より多く失敗する】
創造のステップで拡がったアイデアを実際に形にするのがプロトタイピングです。プロトタイプは「試作」ですので、ここでは完成品を作る必要はまったくありません。出来るだけ早く、安く、矢継ぎ早に制作します。極端に言えば低品質を維持するのです。

ここでのポイントは、自分たちのアイデアを目の前にしたユーザーがどう感じ、どう利用し、どんな問題に直面するのかを分析することです。使い勝手が悪い様子であれば、素早くその問題となる箇所を修正し再び試す、これを繰り返して製品の精度を高めていくのです。

また前項でも述べた通り、時間の制約はここでも有効です。3日掛けてひとつのプロトタイプを作るよりも、1日で作ったプロトタイプを3回試す方がより良い結果をもたらします。なぜこのような手法をとるのか?その理由は、より早く、より多くの失敗を体験する事です。この事によって、商品サービスの成功に近づくキーとなるポイントが手に入る確率が高くなっていきます。

【サービスのストーリーボード】
形のある製品であればこれまでの説明でその手法は理解できると思いますが、形のないサービスに関してはそうはいきません。例えば「思い出に残るブライダル」を売るとしましょう。これをプロトタイプとして形に表し、ユーザーに体験してもらうことはできません。

そこで活躍するのが「ストーリーボード」です。これは、思いついたアイデアをシナリオや絵にしてストーリーとして伝えるという手法です。このブライダルを利用するとどんな順序でどんな体験をするのかを書き出します。ターゲット層となるユーザーはそのシナリオを見て感じたことをフィードバックします。そのフィードバックを元に再びシナリオを書き換え、精度を高めていきます。

【プロトタイプで知りたいことは何かを明確にする】
プロトタイプを作るときのポイントは「何を知りたいのか?」です。例えばあなたが女性用のカバンを作るとして「最適な重さ」を知りたいのであれば、ひとつのカバンに重りを入れて実際に持ってもらえばいいのです。そうすれば、どの重さから重く感じるのか?軽く感じるのか?の情報を得ることができます。そのために重さの異なるカバンを作る必要はありません。これを高速で繰り返すことがプロトタイプのだいご味なのです。

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デザイン思考7 STEP3「創造」

【創造性の窓を全開にする】
共感によって拡がった可能性を、問題定義によってひとつの問いや目的に集約したら、その次は再び拡散のステージに移ります。どうすればそれを実現できるか?問題解決のアイデアをこれでもかと抽出していきます。

ここでのポイントは、「正解を探さないこと」です。あらゆる可能性を求めチームメンバーからありとあらゆる視点、アイデアを引き出すのです。またアイデアは何もない所からは生まれません。すでにあるものを誰も気が付かなかった方法で切り離したり、くっつけたり、ひっくり返したりしながら、ありきたりのアイデアを非常識なアイデアに変えていくのです。

【制約があるからクリエイティブになれる】
クリエイティブワークをしていると面白いことに気づかされます。それは制約がある方がアイデアは研ぎ澄まされるということです。仕事における三大制約と言えば「コスト」「納期」「品質」です。これらが無尽蔵にあると仮定した場合、残念なことに人は創造性を失ってしまいます。逆に、「いつまでに、これくらいのコストで、この品質のものを」というハードルが高ければ高いほど、人の脳は活性化します。

特に「時間」。与えられた時間の中で何かをしようとすれば、必然的にコストも品質も限界があります。これに関しては、広告クリエーターの書籍などをみれば良く分かります。ほぼ全員が口をそろえて、仕事において最も大切なものは何かという問いに「納期」と答えています。つまり、時間という制約がクリエイティブワークにおける重要なポイントなのです。

この理由は、「捨てる」という発想にあります。「もう少し時間があればアイデアが・・・」は通用しません。与えられた時間の中でアウトプットしたものがすべて。それが府に落ちれば不要なものを捨て、本当に大切な部分だけを残すことができるのです。そこにイノベーションの種が隠されているのです。

【バグ・リストがチームを救う】
では、限られた時間を活かすためにやるべきことは何か?それはいかに準備をしておくかです。IDEO創業者の弟トム・ケリーが執筆した「発想する会社」の中で「バグ・リスト」なるものが紹介されています。これは日常生活の中で気が付いた問題を書き留めておくものです。例えば、両手がふさがった状態でドアを開けなければいけない場面に出くわしたらそれを書き留めておくのです。「どうすれば両手を使わずにドアを開けられるか?」。

こうした日々の気づきや問題解決の習慣がいざという時に力を発揮します。イノベーションを日常化するデザイン思考は、その習慣が創りだすものなのです。


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デザイン思考6 STEP2「問題定義」

【情報を集約し正しい問いを導き出す】
共感のステージよって集められた情報を理解し、顧客が真に解決したい問題は何かを明らかにするのが問題定義です。共感が拡散のステージだとすれば問題定義は集約です。幅広く得た情報をカテゴライズし、分析し、顧客が気づいていないニーズに辿り着くことが目的です。

そのために重要なことが、「正しい問いは何か?」にフォーカスすることです。例えば、宝酒造の「澪(みお)」のエピソードが興味深いです。若者の日本酒離れが進む中、20代から30代の男女がほんのり甘い低アルコールのチューハイを好んで飲んでいることに目を向けて、そのニーズにマッチした商品を開発しました。それが「澪(みお)」です。

もし開発者が「なぜ若者は日本酒を飲まないのか?」と問いかけていたらこの商品は生まれなかったかもしれません。「若者は今、どんなお酒を好んで飲んでいるのか?」に真摯に向き合い日本酒の方を変えてしまったのですから、とても大胆なイノベーションだったと言えます。

【問題の枠組みを捉えなおす】
問題定義のポイントは、「問題の枠組みを捉えなおす」ことです。

「ハーバード・ビジネス・スクール教授のセオドア・レビットは、「人々は4分の1インチ径のドリルが買いたいのではない。4分の1インチ径の穴を開けたいのだ!」と述べた。」(引用:クリエイティブマインドセットより)

穴を開ける方法はドリルだけではありません。更に「なぜ穴を開けなければならないのか?」を問えば、その穴さえ不要になるかもしれません。正しく問題を定義することで、その解決方法はより創造的な答えに辿り着くことになるのです。

問題定義が正しく行われれば、その後の発想や解決手法に一貫性が生まれ、実行に繋がっていきます。従ってデザイン思考のステップ2「問題定義」は、全体のメソッドの中でも極めて重要なステージであり、この問題の捉え方ひとつでプロジェクトの成否が左右されると言っても過言ではありません。

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